「統一教会問題」と「ホスト問題」の意外な共通点とは【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「統一教会問題」と「ホスト問題」の意外な共通点とは【仲正昌樹】

他人には愚かに見える「自己決定」をどう考えるのか? 「自由意志による契約」とはそもそも何か?

写真:PIXTA

 

 ホスト問題も基本は同じだろう。本人が売掛金の仕組みをちゃんと説明されて理解していたかが肝心だ。酩酊状態で判断能力が低下する可能性はあるが、普通に判断できる状態で合意したのであれば、本人の自由意志によるとみなすべきだろう。十分分かっていたのに、そのホストに嫌われたくないので、お金を使い続ける、というのは一種の依存状態だろうが、そうなる可能性も含めて分かっていたのかが肝心だ。ほとんどの場合、ホストクラブに通っている時点で、そうなる可能性があることは分かっていたはずだ。

 私は、人間には自己決定する能力があり、それは常に十分に働いている、と思っているわけではない。むしろ、ほとんどの人が、常に他人の影響で右往左往し、どういう心の状態になれば、本当に「自由意志で決めた」と言えるのか、分からないと思っている。だからこそ、自分がした約束の意味をちゃんと理解していたのであれば、自分が「本当に心から望んだのか」分からなくなっても、責任は取るべきだと考える。

 無論、第三者にはわかりにくい形で、プレッシャーをかけられたり、心理的トリックでごまかされたりすることもあるので、裁判等では、ケースごとに細かくチェックされることになるだろう。あまりにも高額で本人や家族の生活に支障を来すような支出に法的制限をかけることにしてもいい。周囲の人に迷惑をかける可能性があるからだ。

 しかし、長期にわたって喜んでやっていたことを、MC論のような科学的な根拠が薄いもので根拠に否定すべきではない。ミルが『自由論』で論じたように、他人からどんなに愚かに見える行為で、他人に具体的な害を与える恐れが低いのであれば、自由意志によるものと見なすべきだ(愚行権)。「心の中」で生じていることについて勝手に憶測すべきではない。

 MC論が横行すると、最後は、誰も自由意志を持っていないことになり、仕方なく、一番信頼できそうな第一人者に「全て」を委ねることになるかもしれない。それが全体主義だ。

 

文:仲正昌樹

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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